邂逅
最近、私の二人の兄弟が死んだ。仕事の関係で、生涯、遂に逢うことは無かったが、永いこと、私と同じ建物に住んでいたのだ。
霧の深い夜、彼等は、高い窓から身を投げたのだった。二人共、盛装はしていたが、死体は無惨だった。殆ど、何者とも見分けられなかった。私にだけ、判ったのだ。
彼等の仕事は、帽子の収集だった。この街のありと全ゆる古い帽子は、彼等が集めていた。食器戸棚にまで、詰まっていたと言う。
何かが、原因で、彼等は、その全てを失ったらしい。或いは、金利の暴落のためであったか。時折、慎ましい笑声の聴えた、彼等の部屋は、家具で塞がれていたが、破れた新聞紙の他は、何も無かった。
手を取り合って、リボンのように、奈落に墜落することで、兎に角、彼等は、結着をつけたのだ。甲高い人々の叫びが、私に、それを知らせた。‥‥‥
暁、引き取った死体の傍で、食事を済ませ、私は、遠い陸橋まで、一つきり無い、私の帽子を棄てに行った。おそらく、それが、私たちの最後の山高帽であったろう。
暗いながい陸橋、私には、そこで、私たちが、生まれる以前、頸を絞めあって、別れたような気がしたのだ。
(詩集『世界の構造』より コクトウ「アメリカ人への手紙」より)
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